episode 1

“ EROS ”

情動・感覚・知

「民主主義が未だ成し遂げていないことは、個人に自分自身を愛させること、すなわち個人の知的・情動的・感覚的潜在能力の全てを使って個人の自己に対する深い肯定感をもたせることだ」
― エーリヒ・フロム / 社会心理学者 ・ 哲学者

自己に対する肯定感のなさ、無力感は、確実性を与えてくれるとみなされる権威・体制への服従へと繋がり、ますます自己放棄に拍車をかける。一方、自らの内なる尊厳や生命を知る者は、他者の内にも同様なものがあることを知るのである。
個人の自立とそこから導かれる他者へのエンパシーこそが、エーリヒ・フロムの説く「愛」なのであろう。

[ EROS ( エロス/ エロース) ]
ギリシア神話に登場する愛の神・エロス( = ローマ神話における ‘ キューピッド ’ もしくは ‘ アモル ’ ) のこと。
哲学・神学的文脈でも登場する言葉で、プラトン哲学においては、美しいもの善きもの[真善美=善い知・真理]を手に入れようと希求する衝動(欲望・精神的エネルギー)と捉えられます。
ファシズムの時代を生きたエーリヒ・フロムは、アダムとイヴの楽園追放や中世の封建社会、宗教改革をたどりながら、個人の自己に対する愛に基づく他者への愛、ヒューマニズムに基づく社会の愛を定義しています。その「愛」と呼応するものとして、このシリーズでは「EROS」を用いています。

[ Adam, Eve, Cherubim ]
旧約聖書「創世記」に記された 人類の始祖アダムとイヴ。
知恵の木の実を食べたことで恥(= 知) を知り、エデンの園から追放される場面に登場するのが、園と外の世界の境界を守るケルビム( 智天使) 。ケルビムについては逆説的に言えば、「知」を得たアダムとイヴが「知を失わないよう」に見守っていると捉えることもできます。

[ motif / モチーフ ] 

Adam  情動 - リベット( 鋲) : リベット( 鋲) のもつ象徴的フォルムに着目し、直に型取り。 

Eve   感覚 - 薔薇 : tmh. のrose ring と同じローズモチーフのスモールサイズを使用し再解釈。 薔薇は純潔や官能、時には政治的なシンボルなど様々な事柄を象徴する暗喩や比喩を帯びます。 

Cherubim  知 - フェーヴの顔: フェーヴとはフランスで年始に食べる伝統菓子ガレット・デ・ロワの中に当たりくじとして入れる陶磁製の人形。 100 年以上前のアンティークのフェーヴを型取りし、 顔部分を使用。(Hotel1478 シリーズの ‘ INDIVIDUALIST ’ や本シリーズの ‘ DIVIDUALIST ’ とは異なるフェーヴの顔です)


[ behind / 製作過程 ]
デザイナーが気に入って手元に持っていたアンティークのフェーヴが この ‘ EROS ’ のデザインの起点となっています。INDIVIDUALIST などで用いたフェーヴとは異なるふっくらとした顔立ちの造形が いわゆる ‘天使’ を彷彿とさせます。Adam,Eve,Cherubim がそれぞれに異なる要素を持ちながらも、3点で一つの意味を成す(一つの事柄を表す) デザイン として構成し、それぞれのモチーフ選びが行われました。